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12 溶融・合体するキングスライム=ウリ

 ここまで見てくると、やはり残念ながら、西欧的近代に立ち向かう思想家、若者は、朝鮮にはいなかったような気がしてきました。
 これも、売り払ってしまった本に書いてあった、ある韓国人教授の述懐ですが。
 その教授は、大学、という確立された個我が向き合うはずの世界で暮らしているわけですね。
 で、それは苦しいらしいのです。
 そこで、田舎に帰って祖先を祭るチェサ(祭祀)を行います。そこには、ムーダン(巫堂)と呼ばれる、日本で言う恐山のイタコの様な巫女が来て神卸しをし、狂ったように踊り、飛び跳ねます。
 そのムーダンの語る、祝詞のような先祖の声に触発されて、そこにいた親族一同はトランス状態になって踊り狂います。(う、なんだか筒井康隆みたい)。そして、自我が溶融していき、親族一同は不思議な一体感を感じるのだそうです。
 その教授は、そこで言い知れない歓喜の情のようなものを感じた。と述べていました。
 さらに、呉善花さんという、日本に帰化した元韓国人女性の作家が、「続・スカートの風(チマ パラム)。角川書店」という本で書いた例があります。(先に出てきた田麗玉は、この呉善花さんの実在を疑い、日本人のペンネームに違いない、と決めつけていました。もちろん呉善花さんは実在します。なかなかの美人です)。
 スピノザの学生時代には、日本でも学生運動が起こっていました。スピノザも、大学でピケを張り、警官に引っこ抜かれた覚えがあります。
 しかし、韓国の学生運動は、日本のそれとは比較にならないほど過激だったようです。彼らは、なんとデモの最中に焼身自殺までするのです。
 そのことに関する考察です。p103〜104。

――韓国の学生運動が焼身自殺者を出すと言っても、それはインドの宗教者たちの、抗議の焼身自殺とはまるで異なるものだ。はっきり言えば、デモをしていながらしだいに気持ちがエスカレートしていって、気持ちを抑制することができなくなり、ついに自殺にまでいたっているのだ。
(中略)韓国の学生運動家たちは、イデオロギー以前に、なんとしても道理をとおすんだ、というまぎれもない純粋な気持ちに満ちている。
(中略)いさぎよく死にゆく自分の姿が、デモの最中に頭をよぎる。仲間が一緒に死のうと言えば、ほとんど躊躇無いような気分……。(中略)学生運動家のなかでは「学生会長のために自分は死んでゆく」(中略)といった言葉が当然のように出される。――

 ここで言われている、焼身自殺する韓国の学生は、日本の神風特攻隊とは、似て非なるものです。
 神風特攻隊は、自我を持つ自分が、自己の死を見詰める時間を持っていました。
 その上で、覚悟を持って特攻を決意するのです。
 でも、この焼身自殺する学生は、デモの一体感の中に自我が融け込んでいって、なんだかトランス状態になって、その結果そういう過激な行動に走っているようです。
 ましてや、一頃あったベトナムのお坊さんの焼身自殺とは大違いです。ベトナムのお坊さんは、腐敗した独裁政権に抗議する、という鉄の、しかも透徹した意識を持って、衆生を救うために焼身自殺したわけですから。
 先ほどの教授といい、この学生たちといい、やはり近代的な個我が発達した人格とは違うようです。
 言ってみれば、母子融合のような一体感。胎内で羊水に浮かんでいるような感覚があるのではないでしょうか。幼い子供は、本当に母親と自分との区別がつかないそうです。そんな風に、コリアンは、自分と他人との区別がつかないのでしょう。
 呉善花さんがあげた例でも、自分と、デモをしている集団とが判別不能なまでに一体化していることが読み取れます。学生会長なるリーダーとも、一体化しているのでしょう。
 かなり原始的な心性です。
 大の大人が、母子融合のような一体感を感じる。

 正直言って気持ちが悪いのは否めません。


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