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5 走る走る、本屋に走る。

 スピノザは、早速本屋に足を運びました。本棚を見ると、懐かしい名前が目に飛び込んできました。そうです。スピノザたち夫婦を親韓に導いた、豊田有恒の本があったのです。
「いま、韓国人は何を考えているのか」(青春出版社)
 という本です。まさに、スピノザが求めていたものです。他にも数冊を買い求め、家に帰りました。
 さて、それらの本を読んで驚きました。書いてあることが、本質的にはハングル板に書いてあることと一緒なのです。
 もちろん、2002年ワールドカップ共催に向けて書かれた本ですから、みんな日韓友好というオブラートにくるんではあります。でも、一見煌びやかな装飾を取り払ってしまうと、本音はみんな同じでした。
 この過程で、古本屋で、田麗玉という韓国人が書いた
「悲しい日本人(原題イルボヌン・オプタ=日本はない)」(たま出版)
 なんて本を買いました。さらに、豊田有恒の「いい加減にしろ韓国」(ノン・ブック)などの本も買い求めました。
 豊田有恒の本は、あれほど親韓だった豊田有恒自身が、どうしてむしろ嫌韓に近い立場になったか、を赤裸々に語っていて、切なくなりました。
「悲しい日本人」=イルボヌン・オプタは、韓国で100万部以上売れたといわれる大ベストセラーです。日本と韓国の人口比を考えれば、日本なら300万部ぐらい売れた勘定になります。いやいや、貸し借りもするでしょうから、実際に読んだ人はもっと多いでしょう。
 この「悲しい日本人」は、
「本当に日本が気に入った。親切で愛想がよくて、まったく噂通りだった(後略)」
 という、ある韓国人の述懐で始まります。p15です。そして、数名の韓国人の、似たような感想が並べられます。ここだけ読むと、まるで親日韓国人が書いた本のような錯覚に捕らわれます。
 でも、やはり田麗玉は、韓国人中の韓国人です。
「(前略)いやでも日本は我々の目標であり、全世界で我々を助けてくれる唯一の国なのだ。我々は学ばなくてはならない。我々には日本しかない。(後略)」p17。
 という風に、日本に粘着します。
 そして、本音≠ヘ、突然襲ってきます。( )内はスピノザ。
「ある日の午後2時か3時だったと思う。30人ほどの(地下鉄の)乗客を観察していて、いつしか『なんて日本女性はブスなんだろう』と呟いている自分に気が付いた。そしてその時、ひとつの驚くべき事実に気付いた。私以外の乗客全員が目を閉じ、居眠りしているではないか」p20。
 うーん、これはどうでしょう?
 百歩譲ってもですね、日本女性が韓国女性と比べてブスかどうかは、主観の問題ですよね。(スピノザ個人は、写真などで見る限り、日本女性の方が、韓国女性より遙かに魅力的だと思います。第一、人間の価値は、ブスかどうかだけでは決められませんよね)。
 そして、午後2時〜3時前後の東京の地下鉄で、乗客全員が居眠りをしているなんてことはあり得ません。スピノザも数年間東京に住んでいたので分かります。結構な人数が読書などをしていました。
 つい最近も、こんな記事がありました。

【グローバルアイ】ソウル地下鉄vs東京地下鉄
 2011年11月8日[中央日報/中央日報日本語版]
http://japanese.joins.com/article/368/145368.html?servcode=100&sectcode=140
――東京で暮らすというのは「地下鉄や電車を乗って動く」というのと同じような話だ。(中略)ソウルの地下鉄の中の風景と最も違うのは、読み物がなければ耐えられないというような日本人の読書熱だ。読書強国の日本のメディアは「国民がますます活字離れしている」と連日のように騒いでいるが、赴任2カ月の初歩特派員には実感がわかない。(中略) 地下鉄の中は小さな図書館だ。革や布で作ったカバーで文庫本の表紙を隠して読書に没頭する人の数が、携帯電話でインターネットを楽しむソウルの地下鉄の乗客ほど多いのが不思議だった。(後略)――

 日本人は、紫式部以前の昔から、読書をする人々です。「更級日記」の作者が、憧れの「源氏物語」を手にして、
「后の位もなににかはせむ」
 と言ったのは有名な話です。
 これに対して、韓国人が本を読まない、ということは否定できない事実です。

 2006年12月16日の[中央日報/中央日報日本語版]
――韓国の成人は本を年間11.9冊、平均すると1カ月に1冊の本を読んでいることが分かった。 これは96年(9.1冊)、04年(11冊)よりも多く、この10年間では最高水準。――

 だそうです。一ヶ月に一冊って……。まさか、この本って、雑誌やマンガは、入ってませんよね? しかも、これが過去十年間の最高とは!
 まあ、ある意味、韓国人が本を読まないと言うより、韓国には読むべき本がないのでしょう。それは、この文を書いている2011年9月現在で、韓国の大学生が最も読んでいる本が村上春樹の「1Q84」である、ということに如実に表れています。で、その後の後に続く三位が「ハリー・ポッター」だそうで。
 なんだかなあ。
 他にも吉本ばななや村上龍、江國香織、東野圭吾、塩野七生などの日本人にもおなじみの顔が上位に入っています。
 2005年7月5日の[中央日報/中央日報日本語版]によれば、こうした傾向が起こったのは、1989年に、村上春樹の「ノルウェーの森」が「喪失の時代」というタイトルで韓国語訳され、出版されてからだそうです。熱狂的なファンによって、ハルキズム、という造語さえ生まれたそうです。
 さらに、2010年1月12日の朝日新聞によれば、前述の「1Q84」は、韓国でも100万部が確実視されているそうです。
 韓国固有の文学は、どこへいったのでしょう?


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