home > 第二章 > 15 金両基との往復書簡


15 金両基との往復書簡

 この頃、実は、スピノザは重いうつ病で苦しんでいました。(今も、その重いうつ病は治っていません。で、ぽつり、ぽつりと、この文章を書いているわけです)。
 でも、日本人は、匿名でしか抗議できないへたれだ、臆病者の卑怯者だ、とレッテルを貼られたのでは、たまったものではありません。
 そこで、スピノザは、うつ病で動かない体に、それこそ鞭打って、一日数行ずつ、金両基に対する抗議の手紙を書きました。A4版で20ページほどになったでしょうか。でも、途中で力尽き、倒れ、手紙そのものは尻切れトンボになってしまいました。
 それに、雑誌などをコピーした、各種資料や、前述した車椅子の青年のホームページをプリントアウトしたものなど、10枚以上の資料を添えて、2003年3月に中公文庫編集部気付けで郵送したのです
 もちろん、住所氏名をきちんと書きました。

 匿名ではありません。

 で、それに対する、金両基の反応はどうだったでしょうか。名前も住所も晒しているのですから、その手紙に、
正々堂々と≠たり合ったでしょうか。
 いやいや。
 そんなことはありませんでした。

 金両基は、それから三ヶ月に渡って、スピノザの手紙を黙殺したのです。

 で、スピノザは、六月に催促の手紙を出します。
 それも黙殺されました。
 そこで、いささかヒートアップして、次のような少々荒っぽい手紙を中公文庫と金両基に、中公文庫編集部気付けで送りました。

――中公文庫編集部御中

 前略

 三月に、金両基氏への手紙を転送することをお願いした、Z県のスピノザと申します。
 貴社発行の金両基、櫻井よしこ氏の対談「海峡は越えられるか」を読み、金両基氏の主張に疑問を抱き、氏を批判する立場で長文の手紙を書きました。しかし、氏の住所を知らないため、貴編集部気付けでその手紙の転送をお願いしたものです。
 ところが、それから三ヶ月以上経つのに、金氏から何の音沙汰もありません。
 金氏は、「海峡は越えられるか」p103で日本人はよく批判や抗議、脅迫をしてくるがみな匿名で、名前や住所を示していない卑怯者だ、と書いています。
 さらに「私は渡り合います。逃げません」と豪語しています。これだけ大きな口をたたきながら、私の、住所、氏名を明記した批判には一言もないというのは解せません。
 やはり、金両基も、卑怯者の朝鮮人で、いざ資料を明示し、論拠のはっきりした批判を目にすると、大言壮語も忘れて、尻尾を巻く卑劣で卑屈なやからなのか、とも思います。
 しかし、あまり早合点するのもまずいでしょう。貴社が、出版社の責任と使命を忘れて、金氏に私の手紙をそもそも転送していない、という可能性も存在するからです。もちろん、読者の反応を著者に知らせ、読者からの疑問や批判を著者に仲介するのは、出版社の当然の責務だと思います。
 まさか貴社が、その当然の責務を怠っているとは思いませんが、万一、金氏に冤罪をかけてもいけません。
 そこで、貴編集部に、同封の葉書でことの経緯を説明してほしいと思います。万が一、まだ金氏に私の手紙を転送していないのであれば、早急に転送してください。
 いずれにしろ、葉書で明確な説明をお願いします。
 なお、余裕を持って、九月末まで、金氏から何の回答もない場合は、インターネット上の2ちゃんねるという巨大掲示板に、金両基は、大口をたたいて日本人を罵倒するが、正当な反論からは逃げ回ってばかりいるだけの腰抜けの卑怯者だ、と書き込みます。
 ご存知でしょうが、一日に3000万ヒットといわれる掲示板ですので、それなりの効果があると思います。貴編集部が責任ある対応をとられない場合には、同様にさせてもらいます。
 金両基氏への手紙を、再度同封します。
 では、誠意ある対応を期待しています。

              Z市A町4ー2* スピノザ拝――

 同封した、金両基宛の手紙が、次です。

――
 金両基殿

 前略

 三月に、あなたと櫻井よしこ氏の対談「海峡は越えられるか」に関する批判的な手紙を差し上げた、Z県のスピノザと申します。
 あなたは、同書の中で日本人は住所、氏名は書かずに批判や脅迫をする、と侮辱的な発言をしています。そのくせ、私の住所、氏名を明記した批判には、三ヶ月以上経つにもかかわらず、一言も返していません。
 私は、あなたも、やはり口先だけの、卑怯で卑劣な朝鮮人そのものだと思っております。恥を知るなら、私の批判に真正面からきちんと答えてください。
 九月末まで待ちます。それでも、きちんとした対応がないなら、あなたの恥をインターネット上にさらします。
 大口をたたくだけでなく、性根の座った対応を期待します。

〒***-**** Z市A町4ー2* 電話***ー***ー**** 
                       スピノザ拝――

 多分、金両基は、2ちゃんねるなどと言われても、なんのことか分からなかったと思います。しかし、中公文庫の編集部にも、若者がいたのでしょう。九月末も末、締切ぎりぎりに、慌てて次のような手紙が送られてきました。
速達≠ナ。

――スピノザ様

 冠省

 9月のはじめ頃、中央公論新社の編集部から貴殿からの手紙と資料が転送されてきました。
 貴殿からのA4判20ページの長い手紙を精読する時間が取れないまま時間が経過しております。海外や遠出の生活が続きしかも先約が山積みし、ちょっとした手術もしましたので物理的に時間が取れないのです。
 貴殿はわたしから返事がなければ「金両基は、大口をたたいて、日本人を罵倒するが、正当な反論からは逃げ回ってばかりいるだけの腰抜けの卑怯者だ」と「インターネット上の2ちゃんねる」に書き込みますと書いてきました。が、返事を書くか書かないかはわたしの自由です。
 それに、貴方の手紙と資料をだれが正当な反論と認めたのでしょうか?
 貴方がそう思うことは自由ですが、未読のわたしには正当かどうかの判断は出来ません。
 何時か時問が取れたら正当な反論なのかどうか検証させて頂きます。
 貴殿はわたしが日本人を罵倒しているように取られていますが、日本人を罵倒したことはありません。論者に対する反論や批判はしますが不特定多数の「日本人」を非難したり罵倒したことはありません。また個人を罵倒するような趣味も持ち合わせておりませんので申し添えておきます。
 正当だと信じているなら、論文をお書きになって主張される方法もありますね。
 貴殿が川崎市の高校で歴史を教え、現在もZ県の高校で歴史を教えているとのことですが、お手紙は脅しのような乱暴な文言が目立ちますね。
 たいへん失礼ですが本当に高校の教師でしょうか。川崎市の高校教師には知人が大勢おりますので、貴方のことを聞いてみたくなりました。現在も高校の教師でしたら差し支えなければ高校名を教えていただけますか?教師がこのような乱暴な文言を使って反論?とやらをスピノザに送ってくるのであろうかという疑問が湧いてきたからです。
 本日は取り急ぎ貴殿からの手紙と資料を受け取ったことを記して失礼します。

 金両基――

 さて、こんな手紙が来たわけですが、
 さきほど、金両基の、

「私はわたり合います。逃げません」

 という言葉を、憶えておいていただきたいと申し上げました。
 どうでしょう? 
 この返事は、逃げずに
「わたり合って」
 いるでしょうか?
 スピノザには、到底そうは思えません。
 ええと、まず文筆を生業としている者が、たかだかA4判20ページの手紙を読むのにそんなに時間がかかるというのは、笑うところなんでしょうか。しかも、スピノザは高齢の金両基に気を遣って大きなフォントで印刷していたんですがね。
 手術というのは、ウリは病人ニダ、弱者ニダ。チョッパーリはウリに同情しる、ってとこですかね。(ニダ、というのは韓国語の特徴的な語尾をもじって、コリアンの愛称にしたことから派生した言葉です。ハングル板には、ニダーという、アスキーアートのマスコットまでいます。2ちゃんねる全体のアスキーアート(AA)人気選手権で、二位になったという実績を持つほどの人気者です。チョッパリは、豚足という意味で、足袋を履いていた日本人に対する蔑称。「同情しる」の〜しる、というのは、(写真2)を参照してください。誤植ではありません)。

(写真2)

 で、残念ながら、2002年9月17日以降、ウリはそんな風に同情するようなお人好しではなくなってしまったニダ。(苦笑)(ここの金両基とのやりとりは、ハングル板に上げた書き込みを元に書いています。この頃、実はスピノザは、本当に、それこそ命がけの手術を行い、辛うじて成功したばかりでした。2ちゃんねるへの書き込みは、入院中、子供への口述筆記で行いました。手術をした、とかいう金両基に同情するいわれはありません)。


次へ

inserted by FC2 system