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13 インチョン市立合唱団のことなど

 さて、ここまで書いたところで、衝撃的な映像に出会いました。
 ユン・ハクウォン指揮の、インチョン市立合唱団の演奏会です。テレビで見たのですが、あまりのピッチの正確さと、音色の美しさと声量に圧倒され、聞き惚れてしまいました。
 ことに、第二部でやった、農夫の衣装を着て歌われた労働歌としての朝鮮民謡は、素晴らしいものでした。
 ユン・ハクウォン氏も、風格があって、昔の朝鮮史の研究者たち、田中明氏とか、古田博司氏などが魅せられた、本物の両班とか、ソンビとかいうのは、こういう人を指すのか、と納得しました。
 朝鮮朱子学や、囲碁もそうですが、与えられた枠組みの中で精緻な作業を、飽きずに繰り返す、というのは得意なのかもしれません。
 いずれにしろ、こんな優れた合唱団を生み出す素地はあるのですから、人真似ばかりせずに、こういう方面で独創性を出していけばいいのにと思うのは、スピノザだけでしょうか?
 というか、なんでこんな合唱団が生まれるのに、Kポップスター達は、あんなに情けない声しか出せないんでしょう。
 昔、紅白で聴いた桂銀淑(ケイ・ウンスク)も素晴らしい声をしていたのに。
 でも、まあ、正直、ユン・ハクウォン氏の後継者が現れるのか? となると、かなり懐疑的な自分がいます。
 とにかくコリアンは、継承ということが苦手ですからね。
 こんなスピノザにも、尊敬できる韓国人はいます。
 一人は、指揮者の鄭明勳(チョン・ミョンフン)氏です。
 彼の音楽は、精神的に、まさに長(た)け高し、というに相応しい高さと深さを持っています。
 人柄も、NHKで一度見た、小学校のオーケストラの指導を見る限り、とても魅力的な人でした。でも、そういう人って、韓国から出て行ってしまうんですよね。
 一時は、スピノザは小澤征爾さんより彼を高く買っていました。でも、さすがに小澤さんが行った、ニューヨークはカーネギー・ホールでの癌からの復活コンサートで、水をあけられた感じがしますが。
 もう一人は、囲碁でお馴染みの趙治勲さん。
 でも、彼は幼いときに日本に渡り、周りの囲碁棋士に可愛がられて育ちました。ほとんど日本人と言っていいと思います。
 この尊敬できる韓国人に、今さっきインチョン市立合唱団の指揮者、ユン・ハクウォン氏が追加されました。
 ユン・ハクウォン氏には頑張って欲しいけど、多分後継者は現れないでしょう。
 こういう人たちは、やはり例外中の例外なんでしょうね。


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